Raycraft racing service

2012年12月6日

M232-GP3と全日本最終戦

今年レイクラフトではMicrotecのM232-GP3をMFJの公認ECUとしての認可申請を行い許可されました。

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このM232-GP3は全日本最終戦で山本剛大選手と山田誓己選手が使用しました。結果はご存知のようにレースは大雨でキャンセルとなり予選までの走行となりました。

しかしながらM232-GP3使用のユーザーが予選とはいえ、ECUセッティングに多くの工数をかけられない状況で、山本剛大選手が4位 山田誓己選手がポールポジションという結果は大変有意義な結果であると考えます。

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ここではM232-GP3のレースで使用する場合、他のECUとは違う具体的なメリットについて説明することにします。

例えば吸排気系を大きく変更した場合を考えるとまずは燃料セットを最適化するところから始まります。このような場合M232-GP3は学習機能つきA/FフィードバックコントロールというファンクションをONにすれば実際の走行時のA/Fをエンジン回転数やスロットル開度ごとに設定したターゲットA/Fに非常に短時間で正確に合わせる事が超簡単です。このファンクションはMarelliやMotecの上級モデルと比較しても全く遜色がありません。

例えば吸排気系を大きく変更した場合、この機能をONにした状態でサーキットをレーシングスピードで3周ほどすればほとんどの場合実A/FがターゲットA/Fの±0.15程度の範囲に収まります。実際はスロットル開度15~20%以上をA/Fフィードバックゾーンに指定しておいてスロットル全閉~15%程度までの領域はスロットル開けはじめのキャブレーションやエンジンブレーキ特性のセットを各ユーザーが行う領域でありラップタイムにも大きく影響する領域でもあります。逆に言えばスロットル開度20%以上の通常の燃料セットに時間を費やすほどレースウイークはひまではないのです。

またM232-GP3の学習機能つきA/Fフィードバック機能は最終の補正値をECU内部にメモリーしているためA/F計測システムを外してもECU内部にメモリーされた最終補正値を使用してバーチャルA/Fフィードバックで運転することが可能です。またこの学習機能つきA/Fフィードバックを行うために必要なA/F計測システムは特別専用品ではなくCAN出力付きまたはアナログ出力付きのA/F計測システムであれば基本的には可能です。

ここで前出したエンジンブレーキに関してM232-GP3はどのようなことが出来るか説明します。M232-GP3はNSF250RのスロットルボディについているStepper Motor タイプのバイパスエアバルブを直接コントロールすることでエンジンブレーキコントロールを行っており、この方式はNSF250R STD ECUと同じです。

しかしながらSTD ECUと異なるところはM232-GP3はエンジンブレーキのコントロールセットをギア段毎に設定出来ることとエンジンブレーキの強弱を細かく設定できることが大きな違いです。NSF250Rのエンジンブレーキコントロールセットは6000rpm以下の調節と8000rpm以上の調節のみ行うことが可能で、多くのユーザーは8000rpm~13000rpm程度の領域にセッティングの葛藤があるのではないでしょうか。具体的には8000rpmでエンンブレーキをより強くしたセットにすると13000rpm前後のダウンシフト時の使用領域では素早いギアチェンジでリアタイヤが大きくロックする傾向になります。またこの逆で13000rpm前後のダウンシフト時の使用領域に合うようにエンジンブレーキをセットすると8000rpm付近のターンイン時のエンジン回転数領域でエンジンブレーキが弱く逆に車体を押してしまい旋回させずらい状況のになる傾向が強くなるのではないでしょうか。この点M232-GP3はエンジン回転数ブレークポイントが32箇所設定することが可能なのでよりきめ細かなエンジンブレーキの設定が可能です。

次にGP3カテゴリーにはあまりなじみが少ないトラクションコントロールに関してGP3カテゴリーでも大いに有効であるという話しをしたいと思います。まずここで断っておかなければならないのはレース用トラクションコントロールとはストリートバイクのトラクションコントロールとは異なり基本的にトルクリダクションをライダーに明らかに認識されるようなシステムではありません。実際、一昔前の失火を多用していたトラクションコントロールは少数派となりDBWによる吸気量コントロールやA/Fコントロール、IG/Tコントロールによるトルクリダクションが多くみうけられるようになてきています。ここからはレイクラフトの私的な思想を多分に含んだ話でですが時間つぶしに考えてみて下さい。

まずGP3カテゴリーのロガーデータを見て思うことはコーナー立ち上がり時のバンクアングルとスロットル開度の関係です。バンクアングルの最大値はどのカテゴリーも同じようなものですがGP3の場合JSB / GP2 / ST600 では考えられない深いバンクアングル時からスロットルが100%になっている点です。この事実は何を言っているかと言えば、もし車体全体のトラクションが破綻した場合、ライダーがスロットルを少し戻した位では駆動力はほとんど減少しないということです。現実的にも全日本GP3/WGP MOTO3カテゴリーのトップクラスのライダーたちの立ち上がり時ハイサイドは非常にハイスピードであり、多くの場合ライダーが対処出来ないぐらい素早い現象です。

これらの現象の原因の一旦にハイグリップタイヤと大口径スロットルボアが考えられます。しかしながらこれらアイテムをリストリクトしてしまうのはあまりにも後ろ向きでありレース自体の醍醐味までリストリクトしてしまう可能性をはらんでおり規制することには反対です。本来であればDBWシステムがこの問題の多くを解決するのではありますが現実的にはDBWは使用できません。

ここで視点を変えて急激なグリップアウトをトラクションコントロールで緩和できないかという発想です。ここで問題となるのはGP3の場合、スロットル開度からはバンクアングルを予想しずらい点です。しかしながら現在は非常に安価ではあるが高性能なイナーシャルプラットフォームを入手することが可能となってきています。このようなイナーシャルプラットフォームを用いたコントロールはレース界ではMOTOGPやSBKだけのものでした。しかし今では誰でもが買えるようになって来ました。当然のことながらM232-GP3にイナーシャルプラットフォームを組み合わせてトラクションコントロールの有効活用することも可能です。またM232-GP3に標準装備されているトラクションコントロールはリアタイヤがスピンする時のエンジン回転数の上昇する速さを感知して出力制御するタイプのトラクションコントロールです。またこのタイプのトラクションコントロールは使用に際して非常に維持管理が楽なタイプです。

なぜならばスリップ感知タイプのトラクションコントロールは走行中に前後どちらかまたは両方の車速計測系に不具合があればそこでトラクションコントロールはキャンセルされてしまいます。この点M232-GP3に標準装備されているトラクションコントロールはエンジン回転数の上昇率をECU自体が常に把握しており、外付けのセンサーは不要なため故障は皆無です。また制御の内容も点火アドバンス・リタードおよび燃料のリーン・リッチ・カットの組み合わせで少しのトルクリダクションから大きなトルクリダクションまで設定することが可能であり実際のトルクリダクションまでの反応時間も十分高速です。また走行中にライダーによるトラクションコントロールのレベル変更も可能でありプライベートユーザーには非常に現実的で有効に使用できるトラクションコントロールではないでしょうか。

いずれにせよMicrotecのM232-GP3はこれからレース用ECUでいろいろなことをしたいと考えているチームやライダーには最適な商品です。取り扱いも非常に簡単でありかつ本格的なレース用ファンクションの一杯つまったECUです。

このECUは将来のWGPライダーを目指すライダーだけではなく将来WGP・SBKでエレクトロニクスプロスタッフやプロメカニックを目指している若者にも使ってほしいECUです。またM232ーGP3を使い込んでいく過程でいろいろなことをインスパイアされてほしい。もちろん野望をもつお父さんメカニックもウエルカムであることはいうまでもありません。