PAGETOP

データロガー・汎用ECUの販売、レーシングマシンの計測、エンジンのマネージメントシステムの開発請負、レースのコンサルティング

Raycraft racing service

HOME > Column

Column

ネコラム2012年10月4日

天高く、M232‐GP3快走@岡山 <スペック編>

こちらのコラムでは、マイクロテックのECU M232-GP3の仕様について詳しくご紹介したいと思います。 今回は思いっきり字だらけですので覚悟して読んでください。

 

M232-GP3の主な特徴は3つあります。

一つ目は、きめ細かなエンジンブレーキコントロールが出来ることです。

エンジンブレーキのコントロールはこの車種に限らず4サイクル車両の永遠で最大の命題です。 ここがライダーの納得するフィーリングにセットできるか否かがラップタイムを決める重要な要素のひとつになると言っても過言ではないと思います。 

その一方で、エンジンブレーキコントロールのセットは、ライダーの乗り方や好みに大きく依存する、絶対的な答えのない大変難しいセッティング項目でもあります。 

具体的には、M232-GP3では、NSF250Rの純正スロットルボディに付いているエンジンブレーキコントロール用のエアバイパスバルブ(ステッパーモータータイプ)を以下のようにコントロールすることが出来ます。

1)エンジン回転数毎 2)ギア段毎 3)減速中のスキッド(リヤタイヤのハーフロック)のレベル毎といった複数の基本的なパラメータを組み合わせでセッティングすることが可能です。

またM232-GP3は2つの全く異なるマップを持つことが出来るので通常のエンジンブレーキセットをMAP1にセットし,タイヤが消耗した後に有効なエンジンブレーキセットMAP2に設定することも可能です。実際今回のテストでもストレート部の減速セットは同じで、ターンインからクリップにかけての部分ので異なるセットをした2つのマップを使い分けるというテストも行いました。

とは言っても今お話ししたセットはチームもライダーも高いスキルを持たなければセットできないことも事実です。しかしM232-GP3は単にアイドリング回転数を高く設定するだけのセットも当然のことながら可能なのでその状態でテストをはじめて、エンジンブレーキの過不足を回転数といった切り口で体感すればおのずと乗りやすいエンジンブレーキのセットが見つかるはずです。またギア段毎のセットに関しても乗り込んでいくうちに自然とギア段ごとの要求が分かりオールギア1マップでは矛盾を感じるようになると思います。

ではギアポジションセンサーを持たない現行のNSF250RではどうすればいいかというとM232-GP3にはリヤスピード計測を追加すればRPMとリヤスピードの関係からギア段をリアルタイムに認識することが可能となります。このギア段の認識はエンジンブレーキコントロールだけでなく燃料噴射量/点火進角/シフター失火(リタード)時間などのコントロールにも使用できます。

 

二つ目は、学習機能の付いたA/Fフィードバック制御です。

まず、A/Fのフィードバック制御とはどんなものか簡単に説明しましょう。 

A/Fとは Air/Fuel つまり空気と燃料の重量比率のことで、日本語では空燃比と呼んでいます。吸気の空気量と供給燃料の混合比を数値化したもので、通常排気管につけたラムダセンサーで排気管内の排気ガスを計測しそこからその排気が燃焼した際の混合比を推定するものです。 このA/Fの値が大きいといわゆる ”燃料が薄い”、数値が小さいと ”燃料が濃い” という状態です。

理想的なA/Fの値はエンジン回転数やアクセル開度や用途により異なりますが、フィードバック制御とはターゲットとするA/Fの値をあらかじめ設定しておき、ベースマップを元に噴射される燃料が実際に燃焼したときにその結果として得られるA/Fの値とターゲットの値との差を比べ、基本燃料噴射量に対して燃料の量を”増やす””減らす”の判断をしてECUが次の最終燃料噴射量を決める制御です。 

この制御のおかげで、仮に吸入空気量が変わったとしても、ECU側で自動的に燃料の量を調整するので、常にターゲットとなる空燃比を得ることが出来ます。 つまりいつも自分の設定したターゲットに近いエンジンの燃焼状態を保つことが出来るようになるのです。

さらに学習機能が付いていると、あるエンジン回転数・スロットル開度での補正値をECU内に記憶しておき、次に同じエンジン回転数・スロットル開度の時に前回の補正値を元に補正を行うため、補正を繰り返すことで補正の量が微量になってゆき、A/Fのターゲット値への補正をより正確に適正に行うことが出来るようになります。

またここで誤解の無いよう解説しますが、このM232-GP3のA/Fフィードバックの制御スピードと正確さはサブコンなどについているオートチューニングといわれているモノとは雲泥の差であることです。レイクラフト取り扱い製品で比較すればこのM232-GP3のA/Fフィードバックの制御スピード、正確さ、はうそみたいな話ですが マレリのマーベル4と同等で、扱い易さはダントツでNo1です。これは使用すれば必ず実感する超実用的なストラトジ-のひとつです。

 

三つ目は、エンジンコントロールの制御を行うのに、別にセンサー類を追加することなくベースの車両についているセンサー類を使って制御が出来る点です。 また、ステッパーモーターも車両についている純正部品を制御することが出来ます。

それってスゴイこと? と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、センサー類は金額的な問題だけで解決しますが、エンジンブレーキコントロールのハードウェア側のアクチュエータデバイスである、ステッパーモータータイプのいわゆるISC(アイドル・スピード・コントロール)バルブをオープンループで思い通りに高速で動かす制御は純正のECUにとっても、M232-GP3にとっても大変難しい制御作業です。

余談になりますが10年ぐらい前の安価なフルコンはフルコンメーカー側が使用出来るセンサーやアクチュエータ(ISCバルブ/排気バルブなど)を指定するといった状況でした。逆に言えばそのセンサーやバルブしか使えないといった不便な時代もありました。実際バイクに付いている絶対必要な基本センサー(水温センサ/吸気温センサ/吸気圧センサ/大気圧センサ)やアクチュエータが使えないとこれだけでも大きな出費となってしまいます。

それらエンジンブレーキコントロールのためのハードウェアを純正以外のECUで動かすのはさらに難易度が上がります。 現実にM232ーGP3のコンペティターでもあるミクニ製NSF250R用ECUでは、ステッパーモータータイプのISCバルブコントロールではなく、別にオリジナルのデバイスを外付けしそのデバイスを動かすことでエンジンブレーキのコントロールに使っているようです。詳細は分かりませんがデューティソレノイドバルブをPWM駆動しているのであればM232-GP3でもギア段毎にRPM vs スロットル x GEAR または RPM vs 吸気管負圧 x GEAR で定義するDUTY比を設定することが可能なのでミクニ製NSF250R用ECUと同じエンジンブレーキコントロールも可能ですし、デューティソレノイドバルブとステッパーモータータイプISCバルブの併用も可能です。 

 

また、M232-GP3のメリットはこれだけではありません。それは入出力の自由度が非常に高いことです。例えば以下のような入出力が可能です。

1)シフタースイッチ使用可能タイプ : デジタルスイッチタイプ(ON-OFタイプ)及びアナログタイプ(荷重計タイプ)

2)A/F入力タイプ : CAN 及び アナログ

3)フロントスピード入力タイプ : CAN 及び アナログ

4)トラクションコントロールレベル切り替え入力タイプ : 連続可変(ボリュウム) または UP-DOWN スイッチ

以上の様な自由度があれば今現在所有しているセンサーやアンプが有効活用しやすいのではないでしょうか。   

                       

またスーパーバイク等の大型バイクで流行のトラクションコントロール(以下TC)に関してですがM232-GP3に標準搭載されているTCはよりレースの現実に即したものとなっております。

具体的には前後スピードの差、つまりスリップを感知して作動するものではなくエンジン回転数の上昇率をリアルタイムに演算して必要に応じて点火リタードや失火を実行するいわゆるd_RPMタイプのTCで現場でセットしやすく短時間で効果が体感できる仕様となっています。 

しかし、レーシング仕様のTCの本来の目的はラップタイム短縮であり、どんなコーナー立ち上がりシーンでもライダーはスロットル明け待ちといった考え方に対応した物ではありません。実際にスロットル空け待ちでも転ばないで立ち上がるTCがあるとしてもそのようなシーンでラップタイム短縮が出来るTCはMmotoGPにも皆無であることを知っておいていただきたいと思います。

また意外と知られていないのは、非力な4サイクル単気筒250ccもデータを細かく見ていくとミクロ的にはワイルドなグリップ破綻が発生しているのです。ライダーはこのグリップ破綻を強くは感じないかもしれませんが、他車との差が付きにくいカテゴリーだけにこのような領域の改善も有効なのかもしれません。

またGP3は小排気量がゆえの独特な立ち上がり時のスロットル開度とバンクアングルの関係もあり、立ち上がり時に大きなグリップ破綻を発生させると、修正対応が難しく、非常に高速な車体挙動につながりやすいようです。 この現象の発生を防ぎ、発生したとしても高速な車体挙動を緩和するためにはグリップ破綻が赤ちゃんのうちに修正しなければならない。逆にこの赤ちゃんスリップと上手く付き合っていければオンガス側のラップタイム短縮に貢献っできるのではないでしょうか。

ちなみにM232-GP3と2D GPS Memory Liteの組み合わせ(CAN計測)ではこの赤ちゃんスリップとTC制御値の関係がはっきり分かるので、TC強度の過不足が明確に把握できます。

以上の話しは250cc単気筒なのに大げさだと思うかも知れませんがこれからいろいろなエンジンチューナーが出力を改善していった場合には前後車速計測が不要なd_RPMタイプのTCは大いに有効なのではないでしょうか。

 

次にシフターに関してですがM232-GP3の調整項目は、失火またはリタード時間の長さの設定、スイッチが入ってから失火/リタードさせるまでの時間の設定、失火から復帰するまでの時間の長さの設定など、スムーズで適正なシフターの設定を細かくセットできます。 

また、これは汎用のECUとして当然の機能ですが、吸気温補正、大気圧補正が出来ますので、コースや気象条件が変わってもそのたびに燃料のベースマップを変える必要はありません。これは冬の鈴鹿で走行した後に同じ設定で夏のオートポリスを走行しても燃料セットに関しては無修正で同じA/Fを再現できるということです。

 

このようにECUのことを詳しく見てゆくと、ECUってずいぶんいろいろな仕事をしているのだなということに改めて驚かされると同時に、これだけいろいろなことをきっちり仕事させるには、ECUの作り手も使う側もその機能や用途、その効果や影響を十分理解した上でECUに向き合っていかないと、薬にもなるけど時には毒にもなりうるということを肝に銘じておかなくてはならない気がします。