Raycraft racing service

2010年8月24日

戦いすんで・・・ (8耐レース編)

 

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8時間の長い戦いが終わった。  結果は4位。  この結果をどう捉えるかはひとそれぞれだろう。

昨年、表彰台圏内を快走しながら最後の最後でスローパンクチャーにより順位を5位に落としたプロトにとっては表彰台は手の届きそうで届かないpipe dreamに終わった。  それだけに今年も一時、表彰台圏内を走行していたときには、もしかしてという気持ちがなかったといったら嘘になる。

しかしここまでの経過を冷静に振り返ったとき、この結果は決して不運でも、また悲観することもない非常に上出来な内容だったと思う。

まず、上位3台の顔ぶれを見てみよう。1位ハルク・プロ、2位ケイヒン・コハラレーシング、3位TSRと、いずれもホンダ、それもワークス仕様の車両を使用していたチームだ。   そして優勝候補の筆頭であったヨシムラをも凌いでPLOTはスズキ勢でトップの4位。  これは特筆すべきことだ。

次に周回数を見てみよう。 トップのハルク・プロは215周、2位が214周、3位が213周、そして4位のPLOTは212周でトップからわずか3周遅れ、3位のTSRともタイムで1分50秒ほどしか差がない。  レース中の各チームのベストタイムや、タイムベースを考慮したとき、思いのほか上位とのギャップが少ないことに驚かれる方も多いのではないだろうか。  耐久がいかに”Running Strong”が大切かが分かる非常に良い例だといえる。  しかも今年のレースは、一度もペースカーが入ることもなく、また赤旗が出ることもない、非常に淡々としたレースで、だからこそこの結果はトリックのない純然たる実力の結果と思って良い。

さらに、今年は非常にコンディションが厳しかった。  レースウィーク中は連日35℃を上回る猛暑、レース当日も同様で、路面温度も60℃を超えた。  ライダーにとっては体力的に非常に厳しい状況だった。  そして、PLOTのライダーは出口選手も安田選手も怪我が完全に治ってはおらず、この厳しいコンディションの中でその点がボディブローのように時間の経過と共にライダーを苦しめることになった。

しかしこの点も、見方を変えれば、300Kmで二人とも負傷し、その後のテストもままならない時期があったことを考えればここまで来れたのはある意味幸運、そして、消耗しきった二人を最後に救ったのが第3ライダーの若い児玉選手だったという点もPLOTに運があった証拠だと思う。

そして、この結果を支えたのが、PLOTのチームスタッフの働きだ。

8耐でのチームスタッフはPLOTの開発センターの若手社員で構成されている。  常時レースを担当しているメカニック2人を除いては、皆、8耐の時だけ召集されるメンバーなのだが、彼らはプライベートチームとは思えないすばらしい活躍ぶりで、ピットワークをはじめとした耐久に必要な作業をキッチリこなす、素晴らしいスタッフだ。  私たちとリンクする部分について言うと、給油時の燃料の計量、残量チェックは非常に正確で、燃費を管理する上で非常に信頼のおける体制になっている。

振り返って私たちレイクラフトの働きはどうだっただろうか。

実は私たちには残念だった点があった。  それは想定タイムの見積りより実際のラップタイムが遅く、結果的に燃料消費量が想定よりも少なくなってしまった。  これはつまり、もう少し1周あたりの燃料を増やすことが出来たということで、あれほど数cc単位で燃料を絞っていたのも徒労に終わってしまったし、想定タイムの精度と燃料消費量とのバランスを見極めることの重要性が課題となった。  レースタイムを想定したロングランが出来ていなかったことも悔やまれる。

8耐はいつもいろいろな収穫も課題も与えてくれる。

普段の生活の中で、これほどの長い緊張感と興奮と充実感と時には落胆を与えてくれるものがあるだろうか?

スプリントのレースも好きだが耐久にはまた格別の高揚感がある。

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最後に、PLOTのGSX-Rには特別な部品が投入されているなどと、まことしやかな噂を耳に挟んだが、ここで完全否定しておきたい。  車両を見れば一目瞭然だが、スイングアームもリンクもすべてオリジナルだ。

戦いすんで・・・ (事前テスト編)

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まさに満身創痍のPLOTチーム。 しかし、ひるまず淡々とテストをこなしてゆかなくてはならない。 そしてそのためには車両2台を作り直さなければならない。  8耐レースまでに事前テストは3回。

とりあえず私たちの作業は、ハーネスを再度新設。 事前テストまでに何とか2台分準備できた。

1回目の事前テスト(6月30日、7月1日)は、1日目が70分2本と夜間走行45分、2日目が60分3本という超ハードスケジュール。  今回のテストでのレイクラフトの重要なテスト項目のひとつは、ECUでの演算上の燃料消費量と実際の燃料消費量の校正を行うこと。

前回のコラムでも紹介したように、マレリのECUに限らず、多くの汎用ECUはインジェクタの吐出容量をもとに演算で燃料消費量を算出できる。が、実際その値は、ハード側の加工上の精度や、インジェクタ開閉時の慣性の影響で理論上の値と実際の値には何がしかの誤差が生じてくる。  これを、何回か実際の燃料消費量と理論上の消費量の値を比較し、修正係数を決める必要がある。

この修正係数の精度が上がれば、データ上の燃料消費量を正として、その後の燃料消費量の調整をする上で非常に有効だ。

今回の事前テストでは、ライダー二人ともまだ怪我が完治しておらず、連続しての走行は難しい。 限られた走行データをもとに実消費量との校正を進めてゆく。

実際の燃料使用量の計量も非常に重要だ。  メカニックは燃料の給油時の計量、残ガスの計量にも細心の注意を払い行っている。  PLOTチームのメカニックは仕事キッチリでその精度は非常に高い。  忙しい作業の中で、計量などは疎かになりがちだが、こういった緻密な積み重ねがあってこそ結果に結びついてゆくと信じたい。

最終兵器 KODAMAX

2回目の事前テスト(7月7・8日)では、第3ライダーとして児玉勇太選手も合流。  怪我が癒えない二人のライダーに替わりロングランなどのテストをこなす事になった。

前回の事前テストで燃料の修正係数がほぼ確定したため、今回のテストからは、いよいよ燃料消費量を削るための調整を始める。

ドライバビリティへの影響を最小限に抑えながら燃料をいかに削るか・・・ 耐久のエンジンセッティングの永遠の命題だ。

最も初歩的かつ誰もが最初に考える燃料削減の手法は全開を削る方法だろう。  確かにスロットルが最も開いている部分を削れば燃料を削れると思うのももっともだが、実はその部分を削るのはあまり得策ではない。

なぜだろう。  まず第一に全開部分は実は、空燃比のデータを知っている人にはわかると思うが、燃料はそれほど濃くない。  逆にここを削ってしまうと、”走り”に明らかに影響が出てしまう。  では、次に思い浮かぶのは”過渡”?  過渡の部分は確かに開度の割りに燃料の使用量は多い。  しかしここを削るのはさらに得策ではない。  過渡を削るとドライバビリティに顕著に悪影響が出る。  S字が登らなくなるのは鈴鹿では致命的だ。

そこで私たちが着目するのは実は”減速”。  GSX-R1000では、エンブレの影響を軽減するため減速でもスロットルは全閉にはならず数パーセント微開している。  意外に思われる方も多いと思うが、燃料消費量のデータを見ると、実はこの減速区間で消費している燃料が思いのほか多い。  削るべきはここだ。

マレリのECUでは、燃料のフルカットのほかに気筒別のカットも可能。さらにギア毎のカット条件の変更も出来る。  また、燃料カットをする場合、重要なのはカット要件だけでなくカットからの復帰も非常に重要なファクターとなる。  せっかく減速区間で燃料カットしても、復帰時にショックが大きければ、駆動開始のタイミングにも影響するし、ひいては車体の挙動にも影響しかねない。  今回のテストではこの部分を細かに調整しながら燃料使用量の調整を進めた。  もちろん児玉選手のロングランのデータも非常に貴重なデータとなったことは言うまでもない。

3回目でかつ8耐前最後の事前テストとなる7月14日はあいにくの雨模様となった。  雨の燃費データも是非欲しいデータではあるのだが、データを取るにはあまりにも強烈過ぎる大雨となってしまった。

それでも、自称”雨は苦手”の安田選手が率先して豪雨の中をロングラン走行したのには頭が下がった。

余談になるが、ホンダ出身のライダーは押しなべて”しつけ”が良い気がする。         エンジンを掛けるときには必ずギアを入れてから掛ける。  ミッションをいたわる行動だ。  また彼らは 鈴鹿を走行する場合、余程のことがない限りショートカットはしない。  おそらく燃費計算を考慮した対応なのだろう。  止むを得ずショートカットした際は走行後、自己申告してきた。  チョッと驚いた。

あっという間に3回の事前テストは終了した。  しかし燃費データに関してはまだ十分ではなかった。  肝心の出口選手のロングランのデータがない。  後はレースウィークで何とかするしかない。

まだまだ綱渡りの状況は続く。

2010年8月8日

戦いすんで・・・ (300Km編)

鈴鹿300KmのレースウィークはPLOTチームにとって衝撃的なアクシデントから始まった。

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PLOTの第2ライダー、安田毅史選手が、金曜日午前中の特別スポーツ走行でGSX-R1000を初ライド。  順調に慣熟走行を重ねていたが、走行時間終了間際に、表のストレートで前を走るRSV4がガス欠によりスローダウン。  全開の安田選手は避け切れずに追突し、200mも飛ばされ、車両はコース上に舞いフロントから地面に激突して大破。  まさに悪夢だった。  あれほどの大事故で安田選手のけがが右肩の脱臼だけで済んだのは奇跡的だった。

ちなみに、噂によると、ガス欠したRSV4のライダーは軽症で車両の破損も少なかったらしいが、これも他チームの人から聞いた話で真相は不明。 また、当該チームからPLOTに対しての説明や謝罪等は一切なかったらしい。  納得いかない。

大破して戻ってきた車両は見るも無残な状態だった。  私たちは、電装品の破損状況を確認しながら一つ一つ部品や配線をはずしていった。

マレリのECUは小さな擦り傷はあったものの作動は問題なし。  2Dのデータロガーは、外傷もひどく、最後のデータをダウンロードした後メモリを認識しなくなった。  2Dのダッシュパネルは全損。

やっぱり2台作っておいて良かった。

こんなことでくじけている場合ではない。今回のレースウィークでは、いろいろなテスト項目や確認項目もこなしていかないといけない。300Kmはレースではあるが、8耐に向けての絶好のテストチャンスだ。

マレリのECUでは、燃料消費量を1cc単位でカウント出来る。要はインジェクタ容量から燃料マップに照らして実走行での燃料消費量を算出しているのだ。  このデータを2Dのデータロガーで記録し、そのデータをロガーのソフト上で”Cal File” と呼ばれる演算機能を使って1ラップあたりの燃料消費量を割り出す。  こうすれば、ラップタイムと燃料消費量の相関関係を導き出すことが出来る。

一般的にラップタイムが良くなれば、燃料消費量は増加する。 しかしその増加指数はライダーによって異なるし、同じライダーでも乗り方によって変わってくる。 インアウトを繰り返している中での2分10秒0とロングランの2分10秒0では燃料の消費量はかなり違ってくる。

また、燃費が比較的良いライダーとあまり良くないライダーとの燃料消費量の差をデータで比較すると、いろいろなことが分かって非常に興味深い。

燃費の良し悪しは結局1周あたりの総エンジン回転回数に大きく依存している。燃料消費量のデータがあると、1周の中のどこの区間でどれだけの燃料消費をしているのかが明確に分かるため、燃料を絞るべき箇所、ライダーにアドバイスすべき箇所がクローズアップできる。

しかし今回のレースウィークでは残念ながら十分なデータを収集することが出来なかった。  今後数回予定されているテストを有効に生かし、8耐に向けて準備を重ねていく必要がある。

レースウィークは、その後残りの1台で、出口選手がセットアップを重ね、予選5位。

決勝レースは微妙なトラックコンディションの中、出口選手が1週目トップでホームストレートに戻る快走。しかし天候が二転三転する状況の中、7位走行中の19週目のスプーンで転倒し残念ながらリタイヤとなった。

レースの詳細は↓のPLOTのウェブサイトでご覧下さい。

http://www.plotonline.com/plotracing/report/20100614191820.html

というわけで、この後の8耐事前テストに向け、車両の補修、改良はまだまだ続く。

戦いすんで・・・  (準備編)

 

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気がついたら6月5日を最後にコラムを全くアップしていなかった。スケジュールを見返すと、ちょうどそのあたりから耐久モードに突入していた。

今シーズンは”PLOT FARO PANTHERA”チームのJSB車両をサポートしており、シリーズ戦だけでなく、鈴鹿300Kmと8耐の耐久レースも同様にサポートしている。

オートポリスのレース後 (荒天のためレース自体はキャンセル) チーム監督と話し合い、今シーズンはメインカー、Tカーの2台をキッチリ準備しようということになった。  とはいうものの、プライベートチームでは特にスケジュールや予算、工数などの点で2台をキッチリ準備するのは並大抵のことではない。 それも”きっちり”というところがポイントで、2台準備できても2台ともちゃんと走らせられる状態にしておけるかどうかが重要で、Tカーが”部品はぎ取り号”になってしまうことが往々にしてあるからだ。

私たちレイクラフトの作業はというと、まず、ハーネスを製作しなくてはならない。

使用するECUはマレリのMARVEL、データロガーは2D、ダッシュパネルも2Dと基本的な電装品は全日本の前半戦で使用してきたものをそのままキャリーオーバーする。 ハーネスは1台分は新設、もう1台分は前半戦で使用していたものを一部耐久用に改修。

オートポリスから鈴鹿300Kmまでは実質2週間しかなく、ハーネスの製作は苦難を極めた。

新設ハーネスの”仮縫い”(車体に沿わせてハーネスの長さや納まりを確認する作業)を行ったのが6月4日、レースまで残り1週間を切っていた。

ハーネスの仮縫い

ところで、最近の車両はメーカーを問わず”土地代”が高い。つまり、ECUやデータロガーを搭載するスペースを探すのがとても難しくなってきている。

土地代の高いリア回り

GSX-R1000は幸いにもシートレールのスペースが比較的広いのと、PLOTのファブリケーションのセンスの良さできれいに納まった!  ノーマルの位置から移動させたのは、フュエルポンブ・リレーと、スタータ・リレーのみ。邪魔だったウィンカー・リレーは撤去。 加えてマレリのMARVELはラムダアンプが内蔵されているので、別でアンプを取り付ける必要もなくスッキリ。  2Dのデータロガーが省スペースなのは言うまでもないが、このロガーでCANが160チャンネル、メモリは1GB。

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これで、鈴鹿300Kmに、2台体制で参戦するのに何とか間に合った。

今年は300Kmの事前テストがなく、ぶっつけ本番!