Raycraft racing service

2011年8月13日

8耐レビュー その3 <スターレーン パワーシフトの実力>

Suzuka 8HR

今年の8耐では下記のチームでスターレーン社製パワーシフトを採用していただきました。

・ ウッドストック BEET レーシングチーム   Kawasaki ZX-10R       (予選9位/決勝リタイア)

・ TOHO Racing 広島デスモ          Ducati 1098R                     (予選12位/決勝10位)

・ ブルドッカータゴス X 東本昌平 RIDE   Aprilia RSV4                        (予選39位/決勝26位)

・ BOLLIGER TEAM SWITZERLAND  Kawasaki ZX-10R              (予選16位/決勝38位)

Starlane Power Shift

パワーシフトはシフトレバーを踏んだとき(正チェンジの場合は引き上げたとき)に荷重の変化する箇所に荷重センサーを取り付けることで、センサーが荷重を感知してエンジンを失火させシフトアップをアシストするシステムです。

パワーシフトのセンサーは車両の種類やシフトレバーの形状の違いを問わず取り付けられる非常に汎用性の高い製品です。 この荷重センサーは圧縮と開放の双方向を感知でき、ユニット側でバイディレクショナル(双方向)のモードを設定すれば、チームに逆チェンジと正チェンジのライダーがいる場合でも、設定変更やセンサーの取り付けを変えることなく両方向のシフター機能が可能>となる画期的なシステムです。

センサー取り付けのいろいろ

また、パワーシフトはセンサーの感度や失火時間を任意に設定できるのでライダーの好みに合わせたシフトフィーリングが得られると共に、ミッションにも負担を掛けないシステムです。

今回、耐久レースということで、転倒によるセンサーの断線やユニット本体の故障などに備えて本体やセンサーのスペアなどを多数用意していましたが、全くトラブルはなく、その耐久性、信頼性を実証することができました。

2011年8月12日

8耐レビュー その2 <ZX-10RのECUセッティング>

suzuka8h

前回のコラムでは燃費に焦点を当てた内容で8耐をレビューしましたが、今回はエンジンセッティングの視点からレビューしたいと思います。

エンジンのセットで重要となるのは減速時のエンプレ(エンジンブレーキ)加速時のTC(トラクションコントロール)です。

ZX-10RのキットECUでは、エンプレのコントロールは”アイドル・コントロール・バルブ”を使って制御していますが、ライダーレベルやライディングスタイルにもよりますがバイパス・エアだけではエンプレ・コントロールには容量的にも不十分でなおかつレスポンスも良くない傾向にあります。

dscf0003.JPG

マイクロテックのECU M232Rではエンプレ・コントロールはサブスロットル開閉に連動しカムでメインスロットル全閉開度をコントロールして減速時の吸入空気量を調整するシステムを採用しています。これにより、アイドル・コントロール・バルブのネガな部分が解消され、ライダーの要求に合ったエンプレの調整が可能になります。

ここで不思議なのは実際サブスロットルシャフト同軸に取り付けられているエンブレコントロール用であろうカムはSTD車両でも純正KITでも何にも使用する設定がないことです。ではこのカムは誰が使用しているのでしょう。多分SBK関係のチームが使っているのでしょうか。しかしながらこのカムは非常に優れた設計がなされておりレイクラフトの計測ではサブスロットル全開時のメンスロットルのプッシュアップ量は12%以上設定することが可能となる優秀なものです。SBKの圧縮比はJSBなどと比較して大幅に高いことを考えると「このエンブレコントロール用のカムはSBK用のハイカムなのかもしれない。」といったことを想像するのも楽しいものです。

実際のエンプレのセッティングですが、これはライダーにより減速の乗り方が異なるためエンブレの”効き”に対する要求が異なり、またタイヤのスペックや車体のセットによって減速時の状況が変化するとエンブレの要求も変わってくるため、3人のライダーに共通で適用できるエンプレのセットを見つけるのは容易ではありませんでした。

ZX-10Rのサブスロットルは、スズキのGSX-R1000と同様にステップモーターによりメインスロットルとは独立して開度を設定することが可能となっていますが、実際はサブスロットルの動きはエンブレコントロールと密接な関係にあるため完全に独立した開度設定は出来ません。ここで問題になるのは耐久レースの場合に一般的に燃費向上手法として用いられる減速時の燃料カット/減量のスロットル開度条件とエンブレコントロールとしてのスロットル開度の折り合いです。簡単に言えば燃料カット/減量条件を8000rpm以上/メインスロットル開度2%以下と設定してもエンブレコントロールの設定条件では8000rpm以上でメインスロットルの開度が2%以下にならない場合もありS字区間などは減速時の燃料カット/減量で大きく燃費を稼げる区間と分かりつつも燃費とドラビリの両立が非常に難しいセットを要求されます。

言い換えると、サブスロットルの動きは全閉付近のメインスロットルの動きと常に連動しているのでエンプレ制御を他のスロットル開度をトリガーとする制御が混在する場合は中庸セッティングしなければならずもどかしくなることがありますが、ここでメインスロットルがいつも全閉になるバイパスエアタイプのエンブレコントロールに戻しては本末転倒になってしまうのでエンブレの制御方法を変更することはしませんでした。実際M232RにもHONDA-CBRやDUCATI-1098Rで実際使用するバイパスエアタイプのエンブレコントロールを設定したので各ギアでエンジン回転数ごとにステップ数を設定することも可能でしたが・・・・・・・

現実的には言ってしまえば理想のスロットルシステムはDBW(ドライブ・バイ・ワイヤ)です。人間が直接コントロールするアクセル開度とスロットル開度コントロールが独立してECUで制御できるようになるとセッティングの許容は飛躍的に拡大するはずです。

YAMAHA-R1やBMW-S1000RRやAPRILIA-RSV4などは以上のような要件が満たされているので今後ますますスプリントレース化の傾向が強まる鈴鹿8耐ではチームの考え方次第ではHONDAの連覇を阻止するような可能性があるのではないでしょうか。しかしながらHONDAが強いのはこの様な2次的な技術である電子制御などとは全く関係ないエンジン本体思想や車体設計がすぐれているのではないだろうかと思うのも事実です。

DBWは今や4輪ではごく普通のテクノロジーです。ぜひ2輪でもDBWが一般的になってくれることをメーカーのエンジニアの方にお願いしたいと思います。 現状2輪で量産車にDBWが採用されているのは数社だけというのが実情でその中でもレースベース車両になりえる車種は上記の3機種に限られているのではないでしょうか。

実際どこの制御屋さんも基本設計に優れたエンジンと車体を切望しています。なぜならエンジンおよび車体の基本設計が優れていれば制御屋さんの仕事はプラスから始まりますが、そうでなければマイナスからのスタートとなります。このマイナスからゼロまでの仕事が結構大変なのです。

次にTCですが、この制御はトップカテゴリ(MOTOGP/WSBなど)は別にして比較的新しい制御項目であるためまだ良く理解されていない部分も多く、TCをアクセルをラフに開けても勝手にちょうど良く加速してくれる機能だと誤解している方も多いのではないでしょうか。

また、最近はDucatiやAprilia、MVアグスタなどの輸入車の中には標準でTCが付いている車種もあり、ストリートのライダーの皆さんには雨天走行時や一般道で濡れたマンホールの上を通るときなどのスリップを回避できると好評のようです。がしかし、こういったストリートユースのTCと、レーシングに要求されるTCはまったく別のセッティングが必要です。

レーシングに要求されるTCは、加速時の急激なグリップアウトを防ぐためのものと、コーナー立ち上がり時などのリアタイヤの過度なスリップを軽減し加速をアシストすることです。ですからライダーがはっきり認識できてしまうようなTCでは効き過ぎで、そのようなTCはむしろ加速を阻害することになりかねません。ましてやストレートで効いてしまうTCなどは論外です。

事前テストでは、出口、芹沢の両ライダーがメインカーで車体のセットを進める中、武石選手がTカーを使ってメインカーとは別のアプローチで車体のセッティングを試す傍ら、エンジンのセッティングを積極的に担いました。

武石選手は、あえて様々な乗り方でわざとTCが作動するような状況を作り出しTCがどのように効くのかを確認したり、実走でどのレベルのTCが最適かを検証するなど、TCのセッティングに相当な時間を割いてテストしてもらいました。その結果としてこのTCのセッティングに関しては実戦でもかなり有効なレベルに達したのではないかと思っています。

事前テストで大雨の日があったのですが、TCがコーナーの立ち上がりなどで適切に作動し、特にセクター4(130Rからシケイン、最終コーナー)で何度もベストタイムの赤表示が点灯したのはTCの効果があったものと思います。また、テスト、レースウィークを通してハイサイドの転倒がなかったのはこのTCの効果も一役かっているのではないかと考えています。

しかし制御過多になってしまうと、特にTCに関しては注意が必要な気がします。基本は「この制御でラップタイムが早くなったか遅くなったか」を冷静に考えなくてはならないということです。こう考えるとレイクラフト的には有効なTCの構築はまだまだ先になりそうですが全日本の後半戦でいろいろ試してみたいと思います。

2011年8月6日

8耐レビュー その1 <芹沢の28周>

suzuka8h

8耐、終わりました。

レイクラフトがサポートあるいは部品を供給させて頂いたチームについて、レイクラフト的切り口でレビューしてゆきたいと思います。

なお、写真を撮る時間が全くなかったため画像がありません。悪しからずご了承ください。

<追記>

宮城県仙台市から8耐を観戦に行かれた知人の方から貴重な写真を提供して頂きましたので掲載させていただきます。ありがとうございます。

緊張のスタート直前

EVAレーシング・トリックスターのレースは、まさに地獄の底からのスタートになりました。 サイティングラップでマシンにトラブルが発生し、とっさの判断で急遽Tカーに乗り換え!

しかしこのタイミングでのトラブル発生はむしろラッキーだったのかもしれません。スタートした後ではTカーへのチェンジはできません。運があったのだと思います。 昨年のPLOTチームの8耐コラムでも取り上げましたが、プライベートチームでTカーがメインカーと同等に機能する状態になっているということは本当にすばらしいことです。

確かに決勝に備えてメインカーにすべて良いほうの部品を投入していたことは事実です。しかし、いざという場合に備えていつでも出動可能な状態でTカーを準備していたことも事実です。わたしたちも当然ECUにはメインカー、Tカー同一のマップファイルを注入済み。データロガーも8時間計測できる準備をしていました。

芹沢の怒涛の追い上げ

ピットスタートからの怒涛の追い上げで、ルーティンのピットイン時点ですでに12番手まで浮上した芹沢選手の走りは本当にすばらしかった。

そして、その走りと同じくらいすばらしかったのは芹沢選手の燃費の良さでした。

芹沢選手はその熱血的なキャラから、いかにも豪快な走りでアクセルも極力深い開度をキープしているんじゃないかというイメージを持たれている方もいらっしゃるのではないかと思いますが、実はそうではないのです。

芹沢選手の走りのポイントはその繊細なアクセルワークにあると思います。加速の初期はタイヤの駆動を確かめながらスムーズに回転を上げ加速してゆく。また、減速ではアクセルを極力あおらず、エンジン回転が下がってゆくのを待ちながらシフトダウンする。要するに、加速減速に必要最低限のエンジン回転回数しか使わないようにするということです。このような走りは耐久レースの走り方としては理想的です。芹沢選手がこれを常に意識しているのか、耐久の走りとしてすでに身についているのかはわかりませんが、このアクセルワークは特筆すべき点です。

昔の話になりますが、2001年から2004年までKENZで参戦していた北川圭一選手もそのアクセルワークはすばらしく、特にS字の無駄のないアクセルワークは芸術的でした。

話しはレースに戻って、レースの燃費の想定は1タンク27周。(タンク容量は24リッター規定) このガイドラインに沿って絞り過ぎないぎりぎりの燃料消費量を目指す燃調を設定していました。 本当は燃費に余裕を持たせようとすればもっと大胆な燃料カットなども可能なのですが、ライダーの望むドライバビリティを確保しながら燃費も成り立たせようとするとどうしても燃料を絞ることは難しくなる。さらに、テストの日程が限られていて、燃費マップをテストする時間がほとんどなかったことから、ECUからの燃料消費量データを元に想定消費量を割り出すしかない状況でした。

レイクラフトのコラムを熟読されている方ならよくご存知かと思いますが、マイクロテックのECUは燃料消費量をCANでデータストリームしてくれるので、これを2Dのデータロガーで計測すると、1周ごとの燃費はもちろん、1周の中の任意の区間の消費量も確認できるのです。

あと10cc、あと5cc、といった具合で、走りに影響の出ないであろう部分をピンポイントで燃料を削る地道でテクニックのいるマップの作り込みが続きました。 しかし、最大のブラックボックスは出口選手の燃費。 彼の燃費マップでの走行データがほとんどない!

そして案の定レースが始まってみると、出口選手の燃費が想定より良くないことが判明。1タンクで27周が難しくなりました。そうなるとどこか別のところで周回数を増やさなくてはならない。

”芹沢で28周できないか?”

事前テストで、トップ3強(TSR,ヨシムラ、HARC)はすでに28周を達成したことが情報として入ってきていましたが、このチームの想定ラップタイムでは28周は必要ないし、現実的に無理と思っていました。

ここにきてこんな難しい課題が浮上するとは・・・

第1スティントと第4スティントの燃費から芹沢選手の燃費が想定より良いことを確認したうえで、6スティント目で28周走行を決断。 サインボードでL2が提示されてからの時間がこれほど長く感じられたことはありませんでした。

給油後の計測ではなんと消費量は22.6リッター! もう1周いけたかというほどの好燃費。 しかもこのスティントではゼッケン25番の鈴鹿レーシングと抜きつ抜かれつの熾烈なバトルを繰り広げていたにもかかわらずです。1タンク29周の可能性を感じさせる結果となりました。

恐るべし!芹沢太麻樹。

レース後、車検場のEVA初号機

この28周でその後のスティントの周回数負担が軽減しチームは快走。 EVAレーシング・トリックスターはトータル211周で総合5位の結果を収めました。

この後もレビューは続きます。 お楽しみに!