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Column

2011年8月12日

8耐レビュー その2 <ZX-10RのECUセッティング>

suzuka8h

前回のコラムでは燃費に焦点を当てた内容で8耐をレビューしましたが、今回はエンジンセッティングの視点からレビューしたいと思います。

エンジンのセットで重要となるのは減速時のエンプレ(エンジンブレーキ)加速時のTC(トラクションコントロール)です。

ZX-10RのキットECUでは、エンプレのコントロールは”アイドル・コントロール・バルブ”を使って制御していますが、ライダーレベルやライディングスタイルにもよりますがバイパス・エアだけではエンプレ・コントロールには容量的にも不十分でなおかつレスポンスも良くない傾向にあります。

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マイクロテックのECU M232Rではエンプレ・コントロールはサブスロットル開閉に連動しカムでメインスロットル全閉開度をコントロールして減速時の吸入空気量を調整するシステムを採用しています。これにより、アイドル・コントロール・バルブのネガな部分が解消され、ライダーの要求に合ったエンプレの調整が可能になります。

ここで不思議なのは実際サブスロットルシャフト同軸に取り付けられているエンブレコントロール用であろうカムはSTD車両でも純正KITでも何にも使用する設定がないことです。ではこのカムは誰が使用しているのでしょう。多分SBK関係のチームが使っているのでしょうか。しかしながらこのカムは非常に優れた設計がなされておりレイクラフトの計測ではサブスロットル全開時のメンスロットルのプッシュアップ量は12%以上設定することが可能となる優秀なものです。SBKの圧縮比はJSBなどと比較して大幅に高いことを考えると「このエンブレコントロール用のカムはSBK用のハイカムなのかもしれない。」といったことを想像するのも楽しいものです。

実際のエンプレのセッティングですが、これはライダーにより減速の乗り方が異なるためエンブレの”効き”に対する要求が異なり、またタイヤのスペックや車体のセットによって減速時の状況が変化するとエンブレの要求も変わってくるため、3人のライダーに共通で適用できるエンプレのセットを見つけるのは容易ではありませんでした。

ZX-10Rのサブスロットルは、スズキのGSX-R1000と同様にステップモーターによりメインスロットルとは独立して開度を設定することが可能となっていますが、実際はサブスロットルの動きはエンブレコントロールと密接な関係にあるため完全に独立した開度設定は出来ません。ここで問題になるのは耐久レースの場合に一般的に燃費向上手法として用いられる減速時の燃料カット/減量のスロットル開度条件とエンブレコントロールとしてのスロットル開度の折り合いです。簡単に言えば燃料カット/減量条件を8000rpm以上/メインスロットル開度2%以下と設定してもエンブレコントロールの設定条件では8000rpm以上でメインスロットルの開度が2%以下にならない場合もありS字区間などは減速時の燃料カット/減量で大きく燃費を稼げる区間と分かりつつも燃費とドラビリの両立が非常に難しいセットを要求されます。

言い換えると、サブスロットルの動きは全閉付近のメインスロットルの動きと常に連動しているのでエンプレ制御を他のスロットル開度をトリガーとする制御が混在する場合は中庸セッティングしなければならずもどかしくなることがありますが、ここでメインスロットルがいつも全閉になるバイパスエアタイプのエンブレコントロールに戻しては本末転倒になってしまうのでエンブレの制御方法を変更することはしませんでした。実際M232RにもHONDA-CBRやDUCATI-1098Rで実際使用するバイパスエアタイプのエンブレコントロールを設定したので各ギアでエンジン回転数ごとにステップ数を設定することも可能でしたが・・・・・・・

現実的には言ってしまえば理想のスロットルシステムはDBW(ドライブ・バイ・ワイヤ)です。人間が直接コントロールするアクセル開度とスロットル開度コントロールが独立してECUで制御できるようになるとセッティングの許容は飛躍的に拡大するはずです。

YAMAHA-R1やBMW-S1000RRやAPRILIA-RSV4などは以上のような要件が満たされているので今後ますますスプリントレース化の傾向が強まる鈴鹿8耐ではチームの考え方次第ではHONDAの連覇を阻止するような可能性があるのではないでしょうか。しかしながらHONDAが強いのはこの様な2次的な技術である電子制御などとは全く関係ないエンジン本体思想や車体設計がすぐれているのではないだろうかと思うのも事実です。

DBWは今や4輪ではごく普通のテクノロジーです。ぜひ2輪でもDBWが一般的になってくれることをメーカーのエンジニアの方にお願いしたいと思います。 現状2輪で量産車にDBWが採用されているのは数社だけというのが実情でその中でもレースベース車両になりえる車種は上記の3機種に限られているのではないでしょうか。

実際どこの制御屋さんも基本設計に優れたエンジンと車体を切望しています。なぜならエンジンおよび車体の基本設計が優れていれば制御屋さんの仕事はプラスから始まりますが、そうでなければマイナスからのスタートとなります。このマイナスからゼロまでの仕事が結構大変なのです。

次にTCですが、この制御はトップカテゴリ(MOTOGP/WSBなど)は別にして比較的新しい制御項目であるためまだ良く理解されていない部分も多く、TCをアクセルをラフに開けても勝手にちょうど良く加速してくれる機能だと誤解している方も多いのではないでしょうか。

また、最近はDucatiやAprilia、MVアグスタなどの輸入車の中には標準でTCが付いている車種もあり、ストリートのライダーの皆さんには雨天走行時や一般道で濡れたマンホールの上を通るときなどのスリップを回避できると好評のようです。がしかし、こういったストリートユースのTCと、レーシングに要求されるTCはまったく別のセッティングが必要です。

レーシングに要求されるTCは、加速時の急激なグリップアウトを防ぐためのものと、コーナー立ち上がり時などのリアタイヤの過度なスリップを軽減し加速をアシストすることです。ですからライダーがはっきり認識できてしまうようなTCでは効き過ぎで、そのようなTCはむしろ加速を阻害することになりかねません。ましてやストレートで効いてしまうTCなどは論外です。

事前テストでは、出口、芹沢の両ライダーがメインカーで車体のセットを進める中、武石選手がTカーを使ってメインカーとは別のアプローチで車体のセッティングを試す傍ら、エンジンのセッティングを積極的に担いました。

武石選手は、あえて様々な乗り方でわざとTCが作動するような状況を作り出しTCがどのように効くのかを確認したり、実走でどのレベルのTCが最適かを検証するなど、TCのセッティングに相当な時間を割いてテストしてもらいました。その結果としてこのTCのセッティングに関しては実戦でもかなり有効なレベルに達したのではないかと思っています。

事前テストで大雨の日があったのですが、TCがコーナーの立ち上がりなどで適切に作動し、特にセクター4(130Rからシケイン、最終コーナー)で何度もベストタイムの赤表示が点灯したのはTCの効果があったものと思います。また、テスト、レースウィークを通してハイサイドの転倒がなかったのはこのTCの効果も一役かっているのではないかと考えています。

しかし制御過多になってしまうと、特にTCに関しては注意が必要な気がします。基本は「この制御でラップタイムが早くなったか遅くなったか」を冷静に考えなくてはならないということです。こう考えるとレイクラフト的には有効なTCの構築はまだまだ先になりそうですが全日本の後半戦でいろいろ試してみたいと思います。

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