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ネコラム2012年1月24日

魔性のダイヤモンド SB8RC

この世にはその魅力ゆえに人の心を惹きつけて放さないものがある。

そしてそれは往々にしてその魅力ゆえに人の心を惑わしつつ、一筋縄ではいかない気難しさがあったりもする。

ここにSB8RCというバイクがある。

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BIMOTA

優美さ、こだわり、他とは一線を画すコンセプトはある意味孤高といってもよい存在だ。

ところが、その美しいバイクがときに気難し屋の手に負えない獣と化すことがある。

今回の御題は手負いのSB8RCを優雅な女豹にもどす作戦のおはなし。

そのバイクが仙台のフクダテクニカに入庫してきたのは、震災後ようやく落ち着きを取り戻しつつあった2011年6月だった。

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アルミとカーボンのコンビフレーム、フレーム右側に沿うようにホリゾンタルにレイアウトされたリアショック、パズルのように取り回されたエグゾースト、長いホイールベース、ダイナミックなトリコロールのカラーリング、どれも「奇抜」という単純な言葉だけでは言い表しきれないまさに珍獣!

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昆虫チックなフロントカウルがちょっとしたご愛嬌。

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で、この珍獣の入庫の理由は始動性の悪さ。

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エグゾーストはモトコルセ製が装着されていました。 これまでこちらのコラムで紹介したカスタムでも何度か登場していますが、モトコルセのエグゾーストは大変すばらしいパフォーマンスのエグゾーストのひとつであることは間違いありません。 しかし、ノーマルからエグゾーストを変えたときに避けて通れないのが燃調のセッティング変更。

これまで、何人かのオーナーさんと何軒かのショップさんでの苦心の跡がうかがえる状態でした。

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サブコンを取り付けて燃料を調整していたようでしたが、思った通りにはいかなかったようなのです。

そこで、フクダテクニカさんより依頼を頂き、フルコン投入!

2011年発売のマイクロテック製ECU M232Rを装着しました。 ハーネスはノーマルハーネスを一部改造して使用。 ラムダアンプは米製デイトナセンサーズの2チャンネルラムダアンプを使用して燃料のフィードバックコントロールを行いました。

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マイクロテックのM232Rは現在レイクラフトいち押しのハイパフォーマンスECUで、基本的な燃料噴射量調整(ギア段毎)、燃料噴射タイミング、点火時期調整(ギア段毎)を制御できることはもちろんのこと、ラムダアンプを使用しての燃料のフィードバックコントロール、dRPMを使ったトラクションコントロール、ローンチコントロール、シフター機能、ピットロード・リミッター機能、燃料消費量カウントなどなど、ストリートユースからレーシングユースまで幅広くかつ高いパフォーマンスの制御が可能なECUです。

懸案の始動性については、燃料だけでなく点火進角のマップも調整しながら、最善のセットを見つけ出すべく地道にセッティング。 始動性は大幅に改善し、もはや始動に関しての不安は一切払拭されました。

続いて、常用領域のセッティング。

ベースマップの無い車両をセッティングするのは至難の業です。

今回は時間と手間はかかりますが、燃料と点火進角のベースマップをノーマルのECUから解析して取り出す方法を選択しました。 この車両のベースエンジンはSUZUKIのTL1000Rですので、そのベースマップデータがあればそれを流用という手もありますが、今回はそれも無かったので、これまた地道にデータ取りを行います。

毎度毎度思うことですが、ECUのセッティングってホントに地道な仕事の積み重ねです。

ベースマップが準備できたところで、シャシーローラーに載せて、データをロガーで計測しながら燃料と進角のマップを最適化してゆきます。

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M232Rには、マイクロテックECUの特徴的な機能である「学習機能付きA/Fフィードバックコントロール」という機能が付いていて、これは、設定した空燃比のターゲットに対しマップ値との差分をリアルタイムで燃料補正するものです。

この機能のあるおかげでセッティングの時間は大幅に短縮できますし、この機能は実際の走行時にも大いに活躍してくれます。

というわけで、オーナーさんのもとに帰ったSB8RCがその後どうなったかというと、富士のMVアグスタ走行会で走行し、オーナーさんは始動性、走行性共に大満足されたとの報告を受けました。 以前の状態とは比較にならない好調さで実際ストレートもかなり速かったとか・・・

こういう後日談を伺うと本当に良かったなぁと嬉しくなります。

これまで、M232Rは、SUZUKI GSX-R1000,DUCATI DS1000,SUZUKI GSF1250 Bandit, KAWASAKI ZX-10R,DUCATI 749Rなど様々なタイプの車種でその実績を積み重ねてきましたが、今回BIMOTAでもその性能を実証でき、SB8で燃調や乗り味にお悩みをお持ちのユーザーの皆さんにはきっと朗報となるはずです。 そのようなユーザーの方はぜひフクダテクニカさんにご相談ください。

というわけで、気難し屋の珍獣は見事に優雅な女豹に変身を遂げましたとさ。

どーびんと。

注) 「どーびんと」は山形県置賜地方の方言で、昔話の最後の締めの決まり文句。ちなみに私はかの地の出身です。

ネコラム2011年11月3日

レースは楽しく!   Good bye GP125編 山本武宏というライダー

気が付いたら、2ヵ月半もコラムをサボっていました。

#86

怒涛の全日本ロードレース後半戦も先週末で最終戦を終え、このレースを持って全日本ロードのGP125というカテゴリーはその歴史に幕を下ろしました。 (現在は”J-GP3”と名称を変えていますがここではあえてこの呼び方を使いたいと思います)

J-GP3のカテゴリーは今後は4サイクル250ccという仕様で続けられますが、2サイクル125ccエンジンの車両は今シーズンを持って終了となりました。  あの臭くてうるさい2スト特有の暖機から開放されるのかと思うと、ほっとするようなちょっと寂しいような、複雑な心境です。

今回はGP125ライダーで、長年にわたり2Dデータロガーのユーザーである山本武宏選手をコラムでご紹介したいと思います。

山本選手と船田メカ

山本選手とレイクラフトの付き合いは大変古く、私たちレイクラフトが2Dのデータロガーの取り扱いを始めてまもなくの1999年シーズンより導入していただきました。

当時はデータロガー自体があまり知られていない時代で、ましてやかなり高価だったこの計測システムをプライベーターが導入するというのは画期的なことでした。

しかしこれには2つの理由があって、ひとつは山本選手が元WGPライダーで、データロガーの必要性や有効性を早くから見出していたという点、そしてもうひとつは、この時代GP125はまさに群雄割拠といっても言い過ぎではない程どのチームもいろいろな知恵や工夫を凝らしバイクを”速くする事”に情熱を燃やしていた時代でもあったのです。 ですから、この頃からGP125クラスは2Dのデータロガーを採用し始めるチームがどのカテゴリーよりも多く、山本選手はその先駆けであったわけです。

また、山本選手のデータロガーの活用方法は他のユーザーとは一線を画す斬新なものでした。

エンジンや排気管の仕様を変えて、2スト特有のデトネーションと排気ガス温度の関係をチェックするなどというのは、彼にとってはごくごく当たり前のこと。

仕様の異なる2種類のカウルを付け替えて、ストレートの加速やトップスピードの違いを検証したり、ラップタイムを表示するミニダッシュにラップタイムだけでなく、リヤサスのストローク値を表示し、走行中にリアルタイムで確認するなど、走行の結果としてのデータを比較するのではなく、能動的に走りの違いをデータに反映させてセットアップを詰めてゆくという手法でデータロガーを文字通り活用していました。

山本選手は2007年シーズンで一旦引退されたのですが、GP125ラストイヤーの今年、復帰参戦!

山本選手の愛機

2011年6月、今シーズン初となったもてぎの合同テストでピットに行き、久しぶりに見る山本選手のマシンに搭載されていたロガーに思わず発した言葉が 「懐かしい! まだ元気だったんですね・・・レトロな感じがしますね。」 山本さんに「失礼な・・・」とたしなめられましたが、わたしが本当に驚いたなつかしのロガーが、これです。

 

初代CANロガー

シートレールの上からの画像 f1018959.JPG

 

最新のロガーと比べるとずいぶんずっしり存在感がありますが、当時としてはトップスペックのロガーで、今や当たり前となった”CAN”ロガーの先駆けの逸品です。

ミニダッシュ

ミニダッシュは現行仕様と変わりません。

山本選手の数々の戦歴を計測し続けたデータロガー。

ここで仕事を終えてしまうのはあまりにももったいない。 山本選手にはぜひ今後もこのロガーを引っさげてレースを続けて行っていただきたいと思います。

ネコラム2011年8月13日

8耐レビュー その3 <スターレーン パワーシフトの実力>

Suzuka 8HR

今年の8耐では下記のチームでスターレーン社製パワーシフトを採用していただきました。

・ ウッドストック BEET レーシングチーム   Kawasaki ZX-10R       (予選9位/決勝リタイア)

・ TOHO Racing 広島デスモ          Ducati 1098R                     (予選12位/決勝10位)

・ ブルドッカータゴス X 東本昌平 RIDE   Aprilia RSV4                        (予選39位/決勝26位)

・ BOLLIGER TEAM SWITZERLAND  Kawasaki ZX-10R              (予選16位/決勝38位)

Starlane Power Shift

パワーシフトはシフトレバーを踏んだとき(正チェンジの場合は引き上げたとき)に荷重の変化する箇所に荷重センサーを取り付けることで、センサーが荷重を感知してエンジンを失火させシフトアップをアシストするシステムです。

パワーシフトのセンサーは車両の種類やシフトレバーの形状の違いを問わず取り付けられる非常に汎用性の高い製品です。 この荷重センサーは圧縮と開放の双方向を感知でき、ユニット側でバイディレクショナル(双方向)のモードを設定すれば、チームに逆チェンジと正チェンジのライダーがいる場合でも、設定変更やセンサーの取り付けを変えることなく両方向のシフター機能が可能>となる画期的なシステムです。

センサー取り付けのいろいろ

また、パワーシフトはセンサーの感度や失火時間を任意に設定できるのでライダーの好みに合わせたシフトフィーリングが得られると共に、ミッションにも負担を掛けないシステムです。

今回、耐久レースということで、転倒によるセンサーの断線やユニット本体の故障などに備えて本体やセンサーのスペアなどを多数用意していましたが、全くトラブルはなく、その耐久性、信頼性を実証することができました。

ネコラム2011年8月12日

8耐レビュー その2 <ZX-10RのECUセッティング>

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前回のコラムでは燃費に焦点を当てた内容で8耐をレビューしましたが、今回はエンジンセッティングの視点からレビューしたいと思います。

エンジンのセットで重要となるのは減速時のエンプレ(エンジンブレーキ)加速時のTC(トラクションコントロール)です。

ZX-10RのキットECUでは、エンプレのコントロールは”アイドル・コントロール・バルブ”を使って制御していますが、ライダーレベルやライディングスタイルにもよりますがバイパス・エアだけではエンプレ・コントロールには容量的にも不十分でなおかつレスポンスも良くない傾向にあります。

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マイクロテックのECU M232Rではエンプレ・コントロールはサブスロットル開閉に連動しカムでメインスロットル全閉開度をコントロールして減速時の吸入空気量を調整するシステムを採用しています。これにより、アイドル・コントロール・バルブのネガな部分が解消され、ライダーの要求に合ったエンプレの調整が可能になります。

ここで不思議なのは実際サブスロットルシャフト同軸に取り付けられているエンブレコントロール用であろうカムはSTD車両でも純正KITでも何にも使用する設定がないことです。ではこのカムは誰が使用しているのでしょう。多分SBK関係のチームが使っているのでしょうか。しかしながらこのカムは非常に優れた設計がなされておりレイクラフトの計測ではサブスロットル全開時のメンスロットルのプッシュアップ量は12%以上設定することが可能となる優秀なものです。SBKの圧縮比はJSBなどと比較して大幅に高いことを考えると「このエンブレコントロール用のカムはSBK用のハイカムなのかもしれない。」といったことを想像するのも楽しいものです。

実際のエンプレのセッティングですが、これはライダーにより減速の乗り方が異なるためエンブレの”効き”に対する要求が異なり、またタイヤのスペックや車体のセットによって減速時の状況が変化するとエンブレの要求も変わってくるため、3人のライダーに共通で適用できるエンプレのセットを見つけるのは容易ではありませんでした。

ZX-10Rのサブスロットルは、スズキのGSX-R1000と同様にステップモーターによりメインスロットルとは独立して開度を設定することが可能となっていますが、実際はサブスロットルの動きはエンブレコントロールと密接な関係にあるため完全に独立した開度設定は出来ません。ここで問題になるのは耐久レースの場合に一般的に燃費向上手法として用いられる減速時の燃料カット/減量のスロットル開度条件とエンブレコントロールとしてのスロットル開度の折り合いです。簡単に言えば燃料カット/減量条件を8000rpm以上/メインスロットル開度2%以下と設定してもエンブレコントロールの設定条件では8000rpm以上でメインスロットルの開度が2%以下にならない場合もありS字区間などは減速時の燃料カット/減量で大きく燃費を稼げる区間と分かりつつも燃費とドラビリの両立が非常に難しいセットを要求されます。

言い換えると、サブスロットルの動きは全閉付近のメインスロットルの動きと常に連動しているのでエンプレ制御を他のスロットル開度をトリガーとする制御が混在する場合は中庸セッティングしなければならずもどかしくなることがありますが、ここでメインスロットルがいつも全閉になるバイパスエアタイプのエンブレコントロールに戻しては本末転倒になってしまうのでエンブレの制御方法を変更することはしませんでした。実際M232RにもHONDA-CBRやDUCATI-1098Rで実際使用するバイパスエアタイプのエンブレコントロールを設定したので各ギアでエンジン回転数ごとにステップ数を設定することも可能でしたが・・・・・・・

現実的には言ってしまえば理想のスロットルシステムはDBW(ドライブ・バイ・ワイヤ)です。人間が直接コントロールするアクセル開度とスロットル開度コントロールが独立してECUで制御できるようになるとセッティングの許容は飛躍的に拡大するはずです。

YAMAHA-R1やBMW-S1000RRやAPRILIA-RSV4などは以上のような要件が満たされているので今後ますますスプリントレース化の傾向が強まる鈴鹿8耐ではチームの考え方次第ではHONDAの連覇を阻止するような可能性があるのではないでしょうか。しかしながらHONDAが強いのはこの様な2次的な技術である電子制御などとは全く関係ないエンジン本体思想や車体設計がすぐれているのではないだろうかと思うのも事実です。

DBWは今や4輪ではごく普通のテクノロジーです。ぜひ2輪でもDBWが一般的になってくれることをメーカーのエンジニアの方にお願いしたいと思います。 現状2輪で量産車にDBWが採用されているのは数社だけというのが実情でその中でもレースベース車両になりえる車種は上記の3機種に限られているのではないでしょうか。

実際どこの制御屋さんも基本設計に優れたエンジンと車体を切望しています。なぜならエンジンおよび車体の基本設計が優れていれば制御屋さんの仕事はプラスから始まりますが、そうでなければマイナスからのスタートとなります。このマイナスからゼロまでの仕事が結構大変なのです。

次にTCですが、この制御はトップカテゴリ(MOTOGP/WSBなど)は別にして比較的新しい制御項目であるためまだ良く理解されていない部分も多く、TCをアクセルをラフに開けても勝手にちょうど良く加速してくれる機能だと誤解している方も多いのではないでしょうか。

また、最近はDucatiやAprilia、MVアグスタなどの輸入車の中には標準でTCが付いている車種もあり、ストリートのライダーの皆さんには雨天走行時や一般道で濡れたマンホールの上を通るときなどのスリップを回避できると好評のようです。がしかし、こういったストリートユースのTCと、レーシングに要求されるTCはまったく別のセッティングが必要です。

レーシングに要求されるTCは、加速時の急激なグリップアウトを防ぐためのものと、コーナー立ち上がり時などのリアタイヤの過度なスリップを軽減し加速をアシストすることです。ですからライダーがはっきり認識できてしまうようなTCでは効き過ぎで、そのようなTCはむしろ加速を阻害することになりかねません。ましてやストレートで効いてしまうTCなどは論外です。

事前テストでは、出口、芹沢の両ライダーがメインカーで車体のセットを進める中、武石選手がTカーを使ってメインカーとは別のアプローチで車体のセッティングを試す傍ら、エンジンのセッティングを積極的に担いました。

武石選手は、あえて様々な乗り方でわざとTCが作動するような状況を作り出しTCがどのように効くのかを確認したり、実走でどのレベルのTCが最適かを検証するなど、TCのセッティングに相当な時間を割いてテストしてもらいました。その結果としてこのTCのセッティングに関しては実戦でもかなり有効なレベルに達したのではないかと思っています。

事前テストで大雨の日があったのですが、TCがコーナーの立ち上がりなどで適切に作動し、特にセクター4(130Rからシケイン、最終コーナー)で何度もベストタイムの赤表示が点灯したのはTCの効果があったものと思います。また、テスト、レースウィークを通してハイサイドの転倒がなかったのはこのTCの効果も一役かっているのではないかと考えています。

しかし制御過多になってしまうと、特にTCに関しては注意が必要な気がします。基本は「この制御でラップタイムが早くなったか遅くなったか」を冷静に考えなくてはならないということです。こう考えるとレイクラフト的には有効なTCの構築はまだまだ先になりそうですが全日本の後半戦でいろいろ試してみたいと思います。

ネコラム2011年8月6日

8耐レビュー その1 <芹沢の28周>

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8耐、終わりました。

レイクラフトがサポートあるいは部品を供給させて頂いたチームについて、レイクラフト的切り口でレビューしてゆきたいと思います。

なお、写真を撮る時間が全くなかったため画像がありません。悪しからずご了承ください。

<追記>

宮城県仙台市から8耐を観戦に行かれた知人の方から貴重な写真を提供して頂きましたので掲載させていただきます。ありがとうございます。

緊張のスタート直前

EVAレーシング・トリックスターのレースは、まさに地獄の底からのスタートになりました。 サイティングラップでマシンにトラブルが発生し、とっさの判断で急遽Tカーに乗り換え!

しかしこのタイミングでのトラブル発生はむしろラッキーだったのかもしれません。スタートした後ではTカーへのチェンジはできません。運があったのだと思います。 昨年のPLOTチームの8耐コラムでも取り上げましたが、プライベートチームでTカーがメインカーと同等に機能する状態になっているということは本当にすばらしいことです。

確かに決勝に備えてメインカーにすべて良いほうの部品を投入していたことは事実です。しかし、いざという場合に備えていつでも出動可能な状態でTカーを準備していたことも事実です。わたしたちも当然ECUにはメインカー、Tカー同一のマップファイルを注入済み。データロガーも8時間計測できる準備をしていました。

芹沢の怒涛の追い上げ

ピットスタートからの怒涛の追い上げで、ルーティンのピットイン時点ですでに12番手まで浮上した芹沢選手の走りは本当にすばらしかった。

そして、その走りと同じくらいすばらしかったのは芹沢選手の燃費の良さでした。

芹沢選手はその熱血的なキャラから、いかにも豪快な走りでアクセルも極力深い開度をキープしているんじゃないかというイメージを持たれている方もいらっしゃるのではないかと思いますが、実はそうではないのです。

芹沢選手の走りのポイントはその繊細なアクセルワークにあると思います。加速の初期はタイヤの駆動を確かめながらスムーズに回転を上げ加速してゆく。また、減速ではアクセルを極力あおらず、エンジン回転が下がってゆくのを待ちながらシフトダウンする。要するに、加速減速に必要最低限のエンジン回転回数しか使わないようにするということです。このような走りは耐久レースの走り方としては理想的です。芹沢選手がこれを常に意識しているのか、耐久の走りとしてすでに身についているのかはわかりませんが、このアクセルワークは特筆すべき点です。

昔の話になりますが、2001年から2004年までKENZで参戦していた北川圭一選手もそのアクセルワークはすばらしく、特にS字の無駄のないアクセルワークは芸術的でした。

話しはレースに戻って、レースの燃費の想定は1タンク27周。(タンク容量は24リッター規定) このガイドラインに沿って絞り過ぎないぎりぎりの燃料消費量を目指す燃調を設定していました。 本当は燃費に余裕を持たせようとすればもっと大胆な燃料カットなども可能なのですが、ライダーの望むドライバビリティを確保しながら燃費も成り立たせようとするとどうしても燃料を絞ることは難しくなる。さらに、テストの日程が限られていて、燃費マップをテストする時間がほとんどなかったことから、ECUからの燃料消費量データを元に想定消費量を割り出すしかない状況でした。

レイクラフトのコラムを熟読されている方ならよくご存知かと思いますが、マイクロテックのECUは燃料消費量をCANでデータストリームしてくれるので、これを2Dのデータロガーで計測すると、1周ごとの燃費はもちろん、1周の中の任意の区間の消費量も確認できるのです。

あと10cc、あと5cc、といった具合で、走りに影響の出ないであろう部分をピンポイントで燃料を削る地道でテクニックのいるマップの作り込みが続きました。 しかし、最大のブラックボックスは出口選手の燃費。 彼の燃費マップでの走行データがほとんどない!

そして案の定レースが始まってみると、出口選手の燃費が想定より良くないことが判明。1タンクで27周が難しくなりました。そうなるとどこか別のところで周回数を増やさなくてはならない。

”芹沢で28周できないか?”

事前テストで、トップ3強(TSR,ヨシムラ、HARC)はすでに28周を達成したことが情報として入ってきていましたが、このチームの想定ラップタイムでは28周は必要ないし、現実的に無理と思っていました。

ここにきてこんな難しい課題が浮上するとは・・・

第1スティントと第4スティントの燃費から芹沢選手の燃費が想定より良いことを確認したうえで、6スティント目で28周走行を決断。 サインボードでL2が提示されてからの時間がこれほど長く感じられたことはありませんでした。

給油後の計測ではなんと消費量は22.6リッター! もう1周いけたかというほどの好燃費。 しかもこのスティントではゼッケン25番の鈴鹿レーシングと抜きつ抜かれつの熾烈なバトルを繰り広げていたにもかかわらずです。1タンク29周の可能性を感じさせる結果となりました。

恐るべし!芹沢太麻樹。

レース後、車検場のEVA初号機

この28周でその後のスティントの周回数負担が軽減しチームは快走。 EVAレーシング・トリックスターはトータル211周で総合5位の結果を収めました。

この後もレビューは続きます。 お楽しみに!